老人ホームの費用は年金で支払える?費用相場を解説
老人ホームへの入居を検討するにあたって最も気がかりなのは、費用の問題です。高齢になれば主な収入を年金に頼る状況にならざるを得ません。老人ホームの費用は年金で支払えるのでしょうか。
そこでこの記事では施設ごとの老人ホームの費用相場について、わかりやすく解説します。
施設の費用には「入居時費用」と「月額費用」がある
老人ホームに入居する際には、次の2つの費用を支払います。
・入居時費用
・月額費用
入居時費用とは、老人ホームをはじめとする介護施設と入居契約する際に支払うお金のことです。施設やプランによって、入居一時金がないケースもあります。
一方の月額費用は、月々支払う費用です。入居一時金不要の施設では、その分月額費用が高めに設定されることもあります。
各施設の費用相場の一覧
高齢者介護施設の種類は、運営元によって大きく分けて2つに分類できます。
・公的施設:公的な団体が運営
・民間施設:民間企業が運営
公的施設と民間施設の違い
公的施設と民間施設では運営元が全く異なり、対象とする高齢者層や費用相場も異なります。
それぞれの特徴をまとめたものが次の表です。
公的施設 | 民間施設 | |
運営元 | ● 国 ● 地方自治体 ● 社会福祉法人 ● 医療法人 | ● 民間企業 |
代表的な施設の種類 | 要介護の方向け ● 特別養護老人ホーム ● 介護老人保健施設 ● 介護療養型医療施設 自立した生活ができる方向け ● 軽費老人ホーム ● ケアハウス | 要介護の方向け ● 介護付き有料老人ホーム ● 住宅型有料老人ホーム ● グループホーム 自立した生活ができる方向け ● 健康型有料老人ホーム ● サービス付き高齢者住宅 ● シルバー向け分譲マンショ ン |
特徴 | ● 民間に比べて費用が安い ● 低所得者への優遇措置がある ● 入居待ちすることが多い | ● サービスが充実している ● 費用が公的施設より高い |
公的介護施設は、国や地方自治体をはじめとする公的機関が運営しています。手厚い介護の必要な方や、所得が少ない方を対象にしているのが特徴です。そのため民間が運営する施設よりも安価に利用できるメリットがあります。
その反面で入居希望者が多いため、入居までに順番待ちしなければならないのが弱点です。また細やかなサービスやケアといった面では、民間企業には劣る部分もあります。
民間施設は費用はかかるものの、レクリエーションや24時間介護といった行き届いたサービスを期待できる施設が多いのが特徴です。
各施設の費用相場
各介護施設の入居費用と月額費用、および入居にあたって必要な条件をまとめたものが次の表です。
介護度によっては希望する施設に入所できないこともあります。介護施設への入居を検討する際は必要な費用を把握すると同時に、入居者の要介護度も考慮してください。
公的/民間 | 種類 | 入居費用 | 月額費用 | 入居条件の年齢 | 入居条件の要介護度 |
公的 | 特別養護老人ホーム | 0円 | 5〜15万円 | 65歳以上 | 要介護3以上 |
公的 | 介護老人保健施設 | 0円 | 8万〜14万円 | 65歳以上 | 要介護1〜5 |
公的 | ケアハウス | 0円 | 10〜30万円 | 65歳以上 | 要介護1〜3 |
民間 | 介護付き有料老人ホーム | 0〜10万円 | 10〜20万円 | 65歳以上 | 自立〜要介護5 |
民間 | 住宅型有料老人ホーム | 0円〜数百万円 | 15〜30万円 | 60歳以上 | 自立〜要介護5 |
民間 | グループホーム | 0円〜数十万円 | 15〜20万円 | ● 65歳以上 ● 40歳~64歳の特定疾病を原因として要介護認定を受けた人 | ● 要介護1〜5もしくは要支援2 ● 認知症の診断を受けている |
民間 | サービス付き高齢者住宅 | 0〜数十万円 | 10〜30万円 | ● 60歳以上 ● 要介護認定を受けていれば60歳未満でも入所可能 | 自立〜要介護5 |
民間施設の多くは、年齢をはじめとする条件に柔軟性を持たせているケースもあります。判断は施設ごとに異なるため、個別の相談が必要です。
ただしグループホームは介護保険法の認知症対応型共同生活介護の指定を受けて介護サービスを提供する施設のため、厳しく条件が設定されています。
なお公的な介護保険施設では、世帯状況によって負担限度額が設定されているほか費用の減免を受けられることもあります。費用を抑えて施設利用できる公的介護施設では、入居希望者が多く、長期間にわたって入居待ちする人も後を絶ちません。
重度の介護を必要とする緊急性の高い人が優先される傾向にあるため、介護度の低いうちは入所が難しいのが現状です。そのため公的施設入所の順番待ちをする間は有料の施設を利用して公的施設の順番待ちをし、介護度が高くなってから公的施設に移るケースもあります。
厚生労働省資料
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000647295.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/000334525.pdf
介護施設の費用を抑えるポイント
介護施設の利用にあたっては、費用が比較的安価な公的施設であっても月々10万円を超える費用がかかります。月額費用は施設を利用し続ける間、毎月支払い続けなければなりません。年金に頼る高齢世帯にとっては相当な負担です。
介護施設の費用負担を少しでも軽減するには、大きく2つの方法があります。
・月額費用の安い施設を利用
・公共の制度を利用
月額費用の安い施設を利用
利便性が高くサービスが充実しているほど月額費用は高くなります。費用を抑えたい場合は市街地から離れた施設や、建物の築年数が古い施設も含めて検討してください。
また居室が個室タイプではなく、2〜4人がひとつの部屋を共有する多床室を視野に入れると、月額費用を抑えて介護施設を利用できる可能性も広がります。
費用を抑えるなら、利便性や快適さに多少の目をつぶることも大切です。
公共の制度を利用
高齢世帯を支える制度を活用することで、費用を抑えながら介護施設を使用することができます。ここでは次の2つの制度についてご説明します。
・高額介護サービス費支援制度
・特定入居者サービス費
高額介護サービス費支援制度
高額介護サービス費支援制度とは、1ヶ月に支払う介護費用が規定を超えた場合に超過分の費用負担を免除され、介護保険から充当される制度です。制度を利用できる世帯には自治体から通知が届くので、自身で申請する必要があります。
令和3年8月に負担限度額が見直されており、新しい区分が新設されました。
画像引用元:厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/000334526.pdf
この制度によって年収770万円程度の世帯でも、負担上限額4万4400円で介護サービスを受けることができます。
高額介護サービス費の支給対象になると、サービスを利用した2ヶ月後を目処に自治体から支給申請書が送付されます。介護サービスに多くの出費があった際は、自治体から届く通知に気を配り、忘れずに申請してください。
特定入居者介護サービス費
特定入居者サービス費とは、介護保険施設入所にかかる費用負担を軽減する制度です。負担限度額を超えた額があれば、介護保険から充当されます。
特定入居者介護サービス費を利用するためには、自治体に事前に申し込みし、負担限度額認定を受けなければなりません。
また申請にあたっては次の3つの条件をすべて満たしていることが必要です。
- 介護保険施設入所者
- 世帯全員が住民税非課税
- 預貯金等が1,000万円以下(夫婦の場合は2,000万円以下)
特定入居者介護サービス費は、要介護度別に自己負担額の上限が変動します。
要介護度別の支給限度額
画像引用元:厚生労働省
https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/commentary/fee.html
特定入居者介護サービス費の制度を利用して介護老人福祉施設を利用した場合、例えば第3段階の認定で多床室を利用すれば、食費と居住日の基準費用日額2,200円に対して負担額1,020円になります。
画像引用元:厚生労働省
https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/commentary/fee.html
介護施設の費用が支払えなくなった場合の対処法
介護施設の費用を支払えなくなる事態に陥る原因は主に2つです。
・介護の度合いが進行してサービスの利用額が増加
・介護費を負担していた子供の収入減少
各種保険制度を利用していても、一旦は費用を負担しなければなりません。申請してもお金が戻るまでに時間がかかります。その間に介護の度合いや医療費の負担がかさみ、自転車操業状態からいつしか支払いができない状況になる可能性もありえると、常に念頭に置くべきです。
介護費用が支払えない時の対処法
介護費用が支払えなくてもすぐに施設を追われることはありません。しかし身元引き受け人に請求がいき、それでも解決しなければ施設退所を迫られることになります。
まずは相談
介護費用が支払えなくなりそうだとわかったらすぐに、施設職員やケアマネージャーに相談してください。介護の専門家なら、公の制度を駆使して事態を打開する策を見つけられることもあります。
費用の安い施設に転居
介護度が高くなっている場合、公的な施設に転居できる可能性があります。
転居費用の捻出や現在の施設での費用精算といった金銭的負担が難しい場合は、ケアマネージャーや自治体の窓口に事情を説明して対応策を相談してください。経済事情や負債額によっては、生活保護の申請ができることもあります。
おわりに
年を重ねて体が不自由になると、気持ちも弱くなります。しかし高齢者をサポートする施設や制度は急激な高齢者の増加に後れをとっており、不安を感じることもあるでしょう。
だからこそひとりで抱え込むのではなく、自治体や介護の専門家に相談してください。最新の制度を使えば、安心して介護を受けられる可能性が高まります。ただ介護サービスにまつわる制度は複雑です。制度自体も随時改定されています。
専門家の協力を仰ぎながらより良い老後を過ごしてください。